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研究紀要

研究紀要:第19号(2003年)

執筆者 論題 要旨
勝盛典子 池長孟と牧野富太郎 当館が所蔵する池長コレクションを蒐集した池長孟(一八九一-一九五五)が世界的植物分類学者牧野富太郎(一八六二-一九五五)の経済的苦境を救済した大正五年から、彼が亡くなる昭和三十年まで、約四十年に及ぶ二人の関係を彼らの蔵書に注目しながら検証することを目的として、高知県立牧野植物園の資料を中心に、池長と牧野の蔵書の比較や二人の関係資料を調査し、二人の関係についてその全体像を把握することに努めた。これまで知られていない池長と牧野の関係を紹介しながら、池長が牧野のパトロンとなったことが池長の美術コレクションの形成や彼の人生に与えた影響について、また、池長が日本の植物学へ果たした貢献について考察を試みたい。
松林宏典 〈資料紹介〉太山寺所蔵の高麗国王発願金字写経 神戸市西区に所在する古刹太山寺に伝わる高麗国王発願の『紺紙金字仏説大吉祥陀羅尼経・仏説宝賢陀羅尼経』を紹介する。千字文の大蔵経函数番号を有し、跋文に「甲子歳高麗国王発願写成金字大蔵」とあるほか、本文は1行14字で書写されており高麗国王発願経の特徴を持つ一級の遺品といえる。あわせて、跋文の甲子歳を1264年または1324年とみる書写年代の説について、簡略に見通しを述べている。 
麻田明生 物館と学校がさらに近づいていくために-「連携授業」への取組・実践を中心として- 近年、「学社融合」という理念のもと、学校教育と博物館などの社会教育の連携・融合による活動がさかんに展開されるようになっている。本稿では、まずその背景にある考え方、学校からの博物館活用についての現状や問題点あるいは教師の意識を考察する。それらを踏まえたうえで、ひとつの連携・融合の新しいスタイルとしての「連携授業」に焦点を当て、神戸市立博物館での積み重ねてきた実践事例や「連携授業」の意義・効果についての報告と考察をしながら、今後の活動への展望を図ろうとするものである
岡 泰正 青貝細工壷形ナイフ入れに関する資料紹介 本稿は、オリヴァー・インピィ氏(Dr. Oliver Impey)の『ORIENTAL ART』(Vol XLIV No.2,summer 1998)に発表された論文「Sasaya Kisuke, Kyoto “Nagasaki” Lacquer and the woodworker Kiyotomo」の紹介を試み、それに若干の考察を付け加えたものである。このインピィ氏の論考は、制作地と年代の特定がむつかしい輸出漆器に新たな基準を、具体的資料をもって提示するもので、工芸史上まことに意義深い重みを持つ。また、この論文は、鎖国期の日本とオランダの文化交流史の一面のみならず、日本とアメリカの開港以前の接触の歴史と、そこから生まれ出た美しい工芸品の姿を私たちに見せてくれるのである。
三好唯義 「万国絵図屏風」の原図について~1609年版P.カエリウス世界地図の復元 数ある地図屏風の中でも、特に豪華絢爛で極めて多くの情報量を有する作品が「万国絵図屏風」(宮内庁三の丸尚蔵館所蔵)である。また、この作品はその原図となったヨーロッパ製世界地図が判明しており、東西文化交流を研究する上で重要な地位を占めている。原図究明の成果は、鴇田忠正が1974年に発表した論文を契機に、以後、日欧の研究者によって蓄積されていった。その結果、屏風の原図はP.カエリウスが1609年にアムステルダムで刊行したメルカトル図法による壁掛け世界地図であることが判明した。ただ現状ではその図自体が見つかっていないため、その改訂前図であるブラウ1606/07年版図の写真をもって、その参考図版とされていた。本報告では、まず原図究明の研究史を振り返り、次にいまだ世に出ていない1609年図を、その前後の地図資料を用いてコンピューター上で復元した。また、1609年図を中心に、関係する西洋製世界地図と日本人作地図屏風と初期洋風画の経緯図を掲載し、ヨーロッパ製壁地図の日本文化へ与えた影響力の大きさを再確認したい。