研究紀要
研究紀要:第37号(2022年)
執筆者 | 論題 | 要旨 |
---|---|---|
石沢 俊 | 川崎美術館研究(二) ―川崎正蔵の作品収集と美術館活動― | 実業家・川崎正蔵が明治23年(1890)9月6日に神戸市布引の川崎邸に開館した日本初の私立美術館「川崎美術館」に関する研究の続編。本稿では、神戸における実業家としての川崎正蔵の功績、川崎美術館の開館経緯と展示室、展観について、同時代の新聞記事や川崎美術館の陳列品目録などをもとにしてたどり、川崎正蔵の作品収集と川崎美術館の活動を明らかにする。 |
中山 創太 | 【研究ノート】輸出漆器を彩る西洋製版画 | 18世紀末から19世紀初めにかけて、ヨーロッパの人々からの注文に応じて製作された漆工芸品には、西洋製版画を意匠に彩る作品が確認されている。当時の職人たちは、ヨーロッパの人々の注文に応じて、版画に見られる描写を、漆工芸品の装飾技法である蒔絵や螺鈿などに置き換えて表現していたと考えられている。これらは、伝統的な日本の漆工芸品と西洋の絵画表現とが混在した東西文化の接触と変容を物語る作品といえる。本稿では、神戸市立博物館が所蔵する「青貝細工ヴィーナスにアモール図煙草入れ」、「青貝細工異国教会図箱」の原図と考えられる作品を提示し、西洋製版画を意匠に彩る輸出漆器研究の一端を明らかにすることを目的とする。 |
問屋 真一 | 【資料紹介】如意寺所蔵の大般若経 ―平安時代後期の混合経の一例について― |
如意寺の大般若経について、12世紀前半の常隆寺経・中山寺経などの混合経であると2007年に開催した展覧会で解説した。奥書による概報であったが、その後、全巻にわたる調査の機会を得た。中山寺で書写された経巻はその一部が鎌倉時代後期までに、常隆寺で書写された経巻は高男寺、萬勝寺を経て室町時代後期から末期にかけて如意寺へ移り、他の平安時代後期の経巻も交え、一具の大般若経として整備された。その際、各巻の欠失部分について補写だけでなく、他の経巻の該当部分の料紙を切り貼りする手法も取られている。 |
山本 雅和 | 【資料紹介】神戸市立博物館所蔵の装飾付須恵器3態 | 館所蔵の装飾付須恵器3件と、これに関連する古墳時代後期の土器資料についての調査報告を行う。このうち、1件では配像が当時の狩猟場面を写実的に表現していることが詳らかとなった。他の2件は「模造創作品」である可能性を指摘できた。 |
阿部 功 | 【資料紹介】石峯寺境内出土の銅板製鍍 金経筒一保存処理作業報告― | 石峯寺は、神戸市北区淡河町に所在する神戸市内有数の古刹として知られる。数々の貴重な文化財が伝来しており、境内の各所からは、過去に複数の考古資料が出土している。当館蔵の銅板製鍍金経筒もその一つであり、令和2年度に実施した保存処理作業の結果、往時の黄金の輝きを取り戻した。本稿は保存処理作業を通じて得ることができた、数多くの知見について報告を行うものである。 |
阿部 功 山本 雅和 |
失われた古墳と文化財保存運動 ―赤松コレクションの古墳群出土の資料群を取り上げて― |
昭和30年代における開発行為の強力な推進に対して、文化財保存の見地から厳然と立ち向った赤松啓介氏等の在野研究者によって保存された古墳時代後期の資料群を取り上げて紹介する。これらは三田市内神古墳群、小野市焼山古墳群、三木市高木古墳群の出土資料群である。いずれも今となっては現地での古墳そのものの構造は検証できないものの、まとまった量の出土資料の分析から、各古墳群の実態と特徴の一端を明らかにする。 |